房総半島から徒然ブログ

住みにくい世の中を出来れば笑って暮らしたい、寛容でおヒマなかたのみ歓迎の気まぐれブログです。

アウトバーンを行く ドイツ 初めてのヨーロッパ 

国境を超えて

ルクセンブルクを発ち東へ走ると、道はすぐにドイツ国境に差し掛かる。
夜行寝台列車でのスイス国境越えを寝過ごした僕らは、今度こそはと期待した。
アウトバーンの直線路の先に大きなゲートが道を覆っていて、間違いなくドイツ国境がそこにある。パスポートなどを用意してワクワクしながら屋根下で車を止め、窓から顔を出して管理事務所らしき建物を覗く。誰もいない。車を駐車してゲートに戻り周囲を見回すがどこにも人影はなく、アウトバーンを行く車たちはゲートで一応速度を落とし、そのまま走り去ってゆく。
御朱印とまでは言わないにしても、せめて記念の入国スタンプくらいはどこかに置いてないかと探すが、それも無い。
思えば、ルクセンブルクからベルギーに入った時にはゲートすら無く、ただ同質の道が続くばかりだった。学校で習ったベネルクス3国というのは特別扱いで、ドイツは期待できるのではと思ったが、ヨーロッパの国境越えには哀愁も風情も何も無いと知った。パスポート片手に寂しく車に戻り、ライン川を目指してアクセルを踏む。

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アウトバーンというのは全て速度無制限と思っていた。地味なレンタカーのフォードはアクセル全開で何キロまで出るだろうかと、実は少し楽しみにしていたが、期待に反して制限速度標識がしっかり立っている。しかし、順法走行のバックミラーに現われた小さく光る点がパッシングライトを送りながらアッという間に近づき、瞬時に我々を追い抜いてゆく。ポルシェという車はこういう道路を200キロ超の速度で走るためにあるのだと納得したが、ドイツにネズミ捕りは無いのだろうか。

ロマンチック街道

ホッケンハイムまではアウトバーンと田舎道を取り混ぜて走っても300キロ足らずのはずで、時間は十分にあった。
ライン川沿いにいくつかの小さな町を通り過ぎ、ロマンチック街道と呼ばれる長閑な道をしばしゆっくりと走ってから再度アウトバーンに乗った。

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ホッケンハイムの町に近づくとレーシングカーのエンジン音が空から降ってくる。今日は土曜日、F1ドイツグランプリの予選が闘われている時間だ。出口標識が不親切なので、F1の甲高いエンジン音を頼りに行ったり来たりを繰り返し、ここだろうと思われる出口でアウトバーンを降りた。どれだけウロウロしようと道路料金無料というのは素晴らしい。エンジン音に導かれて目指すサーキットはすぐに分かり、あっけないほど順調に聖地ホッケンハイムリンクに着いた。
かつて日本のFISCO富士スピードウェイでのレース観戦時には恐怖の交通渋滞に遭遇した。それがここでは全く見当たらない。不思議でならなかった。予選とはいえFⅠSCOとは比べ物にならない、フォーミュラ1レース当日だというのに。

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ホッケンハイムの夏

不思議は更に続いた。とりあえずランチにしようと、ホッケンハイム駅に車を止めた。駅前に瀟洒なホテルがある。ここでランチをと近づくと入口に張り紙があり、曰く。
「夏休みにつき休業」
え、夏休みの書き入れ時に営業するべき人が、休業してどこに行ったの。しかもF1レース開催の週末に。意味が分からない。
止む無く、駅前広場からサーキットに続く道を歩き、見つけた1軒のレストランに入った。中で地元の方々と思しき男数人がトランプ遊びに興じていて、「客が来ちゃったヨ」という目つきでこちらを見る。営業はしているとのことなので聞いてみた、
「ここ、ドイツマルクのトラベラーズチェックは使えますよね。」
「ナニソレ」
「これですけど。」
1片を見せると、物珍しそうに皆でウラオモテと眺め、一人が難しい顔で首を振っている。疑っているらしい。店主がチェックを持って表に出て行く。カウンターサインしなければただの紙切れなので、まぁ良いかと見ているとしばらくして帰って来てOKが出た。どうやら誰かに見せて、銀行で通用することを確認して来たようだ。

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無事ランチを取り、来た道を駅に戻る。閑静な住宅街の並木道で、両側にはこじんまりした民家がゆったりと並んでいて、どれも1階が車のガレージになっている。それらのガレージでTシャツ姿の若者がオートバイをいじっていて、どうやらBMWDUCATIと思われるレーシングバイクの整備をしているようだ。想像するに、夏の休暇でどこかへ出かけた家のオーナーたちが、レースに参加する若い2輪レーサーたちに1階のガレージを貸している、そんな風景に思えた。夏はF1ヨーロッパラウンドの季節であり、2輪レースの季節でもあるのだろう。
レースに参加するためにやってきて、騒音の中に身を置く者と騒音から逃げる者、ホッケンハイムというのはそういう町なのだろうか。
そんな事を考えながら、夏の日差しの下をアイルトン・セナのいるホッケンハイムリンクのゲートに向かった。


ー つづく ー