房総半島から徒然ブログ

住みにくい世の中を出来れば笑って暮らしたい、寛容でおヒマなかたのみ歓迎の気まぐれブログです。

スチュアートハイウェイ

荒野の物件探し

ハンドル操作のいらない真っすぐな舗装路が緩やかに起伏しながら続いてゆく。360度の地平には砂漠とブッシュが広がるばかりで、いくら走っても周囲の景色が変わらない。
直前を走るソーラーカーの時速は60から70キロというところだが、車間距離ばかり意識するうちに速度感が無くなって、空の一点を見上げて歩いているような不思議な感覚になる。

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ゴールのアデレードまでは6日間の走行なので途中で5回は宿泊という事になる。ルールによって1日の走行は8:00から17:00までと決められているので、制限時刻が近づくにつれ野営地を考えながら走る。ハイウェイの路肩は小さな段差と傾斜で赤土の荒れ地に直結していて遮るものは無いが、ソーラーカーを安全に乗り入れるのは出来るだけ平らで道路に近いスペースが望ましい。都合よくモーテルのネオンが現れることなどまず有り得ない。水場もなければトイレもない。時折よそのチームに遭遇してオーバーテークすると、距離を開いておこうと欲が出る。
無限の荒野でギリギリまで好条件の場所を物色する目つきは、場違いの不動産屋のようだったのではないか。チームの構成からすると6LDK規模で道路付けの良いトコロが欲しい。

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サイトの設営にもいくつかの注意点があった。
テントを張るには至る所にある背丈ほど大きな蟻塚を避けないとアリに齧られるかもしれないし、安全のためには制限時速110kmのハイウェイからも多少は距離を取って、居眠り運転の大型トラックが突っ込んで来るのを避けたい。
どうにか妥協できた場所に6台の車を停めて、まずはソーラーカーのボディを外し東方向に傾ける。明け方からたっぷり充電出来るようにソーラパネルの全面に太陽光が欲しい。だだっ広いとはいえ、鋭いブッシュや岩だらけの地面はヒトの踏み入ったことのない野生そのもので、僅かなスペースを見つけては転々とテントを張る。

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設営作業を終えて、チェイスカーを作業場所として常夜灯を灯し今日を振り返る。B-GANと呼ばれる通信機器を使って衛星経由で日本にデータ送信するのが1日の終わりの作業だ。

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蓑虫のようなテントに戻って上空を見上げると、夜空は見たこともないほどの星で埋め尽くされて眼前に広がっていた。星の川とそれを取り巻く無数の光点以外は均一の闇で塗り込められていて、空と大地の境目すら分からない。
こうして、南半球で初めての野宿の夜は更けてゆく。