房総半島から徒然ブログ

住みにくい世の中を出来れば笑って暮らしたい、寛容でおヒマなかたのみ歓迎の気まぐれブログです。

ナイトラリーという競技

夜に駆ける

大学時代を自動車部の部活とラリーとバイトで過ごした。
JAFのラリーライセンスは持っていなかったので、もっぱら各大学の主催するナイトラリーに参加した。大学生主催の自動車レースを公道で実行するのを警察が許すなど、思い返せば信じられない。今とは比べものにならないほど車に寛容な時代だった。許可されるのは当然夜間走行ということになるので、夕刻にスタートして翌早朝にゴールという400キロほどのタイムラリーが一般的だったと思う。ご存じない方のために少し競技の説明をする。

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オーストラリアのレースでのルートマップ

主催者によってあらかじめ決められたルートを、コマ地図に従って指定の速度で走り、標準所要時間とのプラスマイナス誤差が少ないものが勝ちというタイムレースで、飛ばせば良いというわけではない、そんな走行は公道で許されるわけもないし。
出場車にはコマ地図しか与えられないので、コースの察しはつくが全体像は分からない。途中には何か所かのコントロールポイントが設けられていて、そこで主催者による通過時刻測定がされるので常に標準所要時間に対するオンタイム走行が求められる。所要時間差プラスマイナス30秒とか1分毎にペナルティポイントが累積されるので、いろいろと面倒な計算がある。
まず、標準所要時間を決めた主催者の標準車両と自分の車両では走行距離表示に差が出る。それは各車のスピードメーターの精度やタイヤ空気圧、走り方でも違ってくる。その誤差を補正するためにオドメーターチェックという、主催者標準車両による走行距離数を開示した区間が最初に設けられている。それは通常、市街地の外れ辺りに設定されて、そこまでは飛ばさず、車をドリフトさせて距離計を狂わせたりせず、おとなしく走れということであり、この先は林道区間になるので指定速度で走るのはそう楽ではないぞというターニングポイントでもあった。

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プロのラリーカー車内

この場所でしばし車を止め、標準車両の走行距離値から補正係数を算出して、その後の指定速度全てに掛け合わせて行く。僕のチームはここで更にもうひと手間かけて指定速度のkm/時間を分/kmに換算した。補正係数値と時速ごとの換算表というのが結構な値段で販売されていて、その大きくて分厚いファイルを携行して指定速度ごとに補正後の数値を読み取って計算に使った。
60進数の分秒より10進数のkmのほうが計算機で扱いやすいし、今がオンタイムかどうかを計算結果から確認する際に車の距離計でなく時計で照合するほうがストレートで目的に適っているからだ。ただし算出した標準時刻の秒部分を10進数から60進数に頭で換算する必要が有る。
何を言っているか分からないと思われるので、ムッとしたら無視して読み飛ばして欲しい。

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歯車式手動計算機

クルマには手回し式の計算機が取り付けてあった。懐の温かい連中は小型軽量のものを使うが、我チームのそれは古色蒼然の重量物だった。ナビゲーターはレースの間中そのレバーを100メートルに1回とか、コントロールポイント付近では10メートルに1回とかで回し続け、ドライバーにスピードを指図する。揺れる車内でのこれら下向き作業は相当気持ち悪く、ほぼもれなく車酔いをする。汚い話で申し訳ないが、酔って思い切り嘔吐すればその後はOKなのは酒酔いと同様だ。
僕たちはトヨタのパブリカという、どうにか普通車で非力な水平対向2気筒の中古で参加していたのだが、暖房のファンから吹き出る空冷エンジン特有のガソリン臭は吐き気を倍増した。相棒で四国・松山出身のSはそれも意に介さないのか、羨ましいほど劣悪環境に馴染む男だったが、溝の消えかかったタイヤで峠道をドリフトさせるテクニックは抜群だった。

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パブリカはトヨタ期待の小型車で日本版シトロエン2CVといったところだ。当時の広告フレーズは『1000ドルカー、パブリカ』 固定為替1ドル360円の時代、36万円で日本の国民車を目指していた。
ある大学ラリーで3位に入賞した表彰式では、「なんだこいつらは、この車は」という複雑に冷たい視線を浴びたものだった。