房総半島から徒然ブログ

住みにくい世の中を出来れば笑って暮らしたい、寛容でおヒマなかたのみ歓迎の気まぐれブログです。

友あり、遠方へ去る また淋しからずや

個性満開の1970年代

授業にかける時間が足りず、卒業に5年を要した。
同期の連中は要領よく4年で卒業して行ったので、友のいない5年生はキャンパスに行くことも少なくなり、本業の陸送屋以外にも様々なアルバイトに明け暮れて日々は過ぎていった。
横浜の大学であるが仲間は殆どが地方出身で工学部系、ほぼ全員が製造業や建設業に就職してそれぞれの地元に帰った。
同じ文科系で一人、地元の銀行に就職した男がいる。
あいつが?銀行マン?金を貸す? 噓だろ。いやぁ、さすが西郷どんの国は懐が深い。
その後の便りから、宴会マンとして活躍している由を知り、なるほど、お堅い金融界でも、いや、だからこそ、大学時代に鍛えたそっちの能力が生きるのだと大いに納得した。
横浜ではオイルショック直前の好景気のなか、多彩なバイトが存在した。

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☆分譲マンションの先着順購入行列代行
寒風の中、物件前で購入予定者に代わって徹夜で並び、申し込み券をゲットする。
ひたすら寒いが行列を離れられない、意外に過酷な仕事。
◎アイスクリーム配達屋
担当する何10軒かの町のお菓子屋さんを保冷車で巡回して、店の冷凍ケースに自分の判断で勝手に商品を詰める。
少な過ぎず、多過ぎず、店主のクレームが出ないように品種を決めるのが難しい。アイスクリーム食べ放題の美味しい仕事。
★中古自動車の近距離配送ドライバー
東京に住む退役米兵の自宅から、東神奈川にあったノースピアという軍用埠頭まで、深夜の国道をナンバープレートの無い元タクシー車両を走らせて届ける。
米軍の輸送船に載せてベトナムあたりに送るのだろうが、日本の法規を全く無視したブラックな仕事。
△医薬品等配達業
薬を載せたバンで開業医を回り、営業員から指示された薬を医院の冷蔵後に詰めて回る。
時に中身不明の封筒や、外国の写真雑誌なども一緒に冷蔵庫に詰める、妙な仕事。
▽業務用厨房機器運送業
トラック運転手と2人で、業務用回転窯を荷台から降ろして厨房に搬入する。
長さ3メートル、重量1トンを超える物を、木の梃子とコロだけでどうやって運べたのか思い出せない、不思議な力仕事。

そういえば、下級生に「合否連絡電報屋」を自営している男がいた。
大学入試の日、キャンパスで地方からの受験生を捕まえて、合否の電報連絡を売り込む。合格発表を代わりに確認して即座に電報で知らせるという有料前払いのサービスだ。金持ちの子息が受験する優良大学を選んで出張るらしく、バイトの手下まで使って手広く商売していた。実際には時間と経費削減のために電話で合否連絡していたらしく、
「はーい、こんにちは、サクラサク」 ガチャッ。
よくも考えつくもんだ。

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こうして1年は過ぎ、無事卒業して外資系の事務機器会社に就職した。
その会社は入社試験の筆記がクレペリン検査という心理検査のみ。代わりに面接がグループと個人の計2回。目黒のホテルで最終合宿選考という変わり種だった。
1泊2日の合宿で与えられた課題は、同族経営で傾いた会社を新しい役員陣で再建するというもので、4人ずつのグループに分けられ、営業部長だの経理部長の役割で再建案をロールプレイさせられた。どのグループのプレゼンも失笑と爆笑の渦で、そりゃあ大学生には無理な相談というものだ。
ほぼ徹夜でプレゼン準備するために割り当てられた部屋の冷蔵庫には、何故か酒類がぎっしり詰まっている。4人で、はたと考えた。これ飲んでいいのか。
ジャンケンに負けた僕が試験官の部屋に聞きに行く。
来たか、という顔でニヤリと笑った試験官が言う、
「自腹だぞ」
後で考えると、これも試験の一環だったと思われる。
同期入社の仲間には元スクールメイツの歌手、応援団部長、工場団地で賞味期限すれすれの格安パンを巡回販売して稼いでいた学生起業家、忘年会のたびにエルビス・プレスリーの格好で人力車に乗って会場に現れるロックンローラー男(当時、勤務地が東銀座・歌舞伎座の裏にあった)など、本当に新卒採用かと疑いたい連中ばかり。 
配属された営業部で顧客だった某農協の宴会座敷に呼ばれ、パンツ1枚で柱によじ登り、「雨のフル(降る)キーよりもテンキー(天気)のほうが良い! ミーンミン Me 」とやって、自社のテンキー鍵盤型事務機器を受注したという豪傑セミ男もいた。
あの面接は個性的な学生を抽出するのが目的だったとしか思えない、ユニークなイタリア系の会社だった。
その後、僕は同様に外資の米国系IT企業に転職した。外資系に共通する特有の合理主義や個人主義は結構居心地の良いものだが、カタカナ社名を覚えられない母親には全く不評で、
『 ああ、いやだ嫌だ。また何でそんな会社へ、FBIだなんてさ。』
「 ん? イヤイヤ、おふくろ、そうじゃなくて、似てるけど、」