ドバイ街歩き
アラビアの雑踏に溶ける
海外に出たら必ず現地の市場に行くことにしている。
その熱気や活気に国それぞれの特徴があって、人々の生の暮らしの一端を見ることが出来る。
オールドスーク、スパイススーク、ゴールドスークなどの市場をハシゴして回るにはドバイクリークを行き交うアブラ船に乗るのが便利だ。この水上タクシーは安価な庶民の足で観光客にも好まれて船内は騒がしく、各国の言葉が機関銃のように飛び交う。
そんな中に身を置いていると、表現のしようのない解放感に満たされる。
運河に近い市場はどこも相当に観光地化されてはいるが、それでも日本人には縁遠いアラビアの空気と香りを楽しめる場所だ。
オールドスークの生地屋で熱心な売り子に捕まった。
色々な言い方で、もっと地味なやつを見たいと希望すると、壁の高い棚から次々と反物を降ろしては広げて見せる。土産に買って帰りたかったのだが、どれもあまりに派手で、これではアラビアンナイトの踊り子衣装になってしまう。アラブ世界に地味という言葉は無いらしい。
とても日本の女房殿には向かないので断ると、これだけ見せたらフツーは何か買うぞ、アンタひどい日本人だと怒られてしまった。アラブの商人は怖い。
1か所を回り終えたらまたアブラ船に乗ってペルシャ湾からの暖かい風に吹かれ、ゆっくりと次の地区に移動する。
定時に大音量で流れるコーランに導かれて人の群れが動く。それに混ざって町のモスクを覗いたり、買う気もない豪華な金製品や調度品の店を安全に冷やかすうちに、一日はあっと言う間に過ぎていった。
歩き疲れたらクリーク沿いの店に立ち寄って冷たいビールで一休みというのが日本人の常識だが、ここではそれが出来ない。カフェやレストランにアルコールはないし、酒屋も見当たらない。これがイスラム教の国で一番困る。
本当にみんな酒を飲まないのか、ホンネとタテマエってものがあるだろうと現地人に聞いたところ、酒屋はあるという。教えられた場所に行ってみると、何の看板も出ていない拒絶的な扉が重く閉ざされているのみで、外国人の立ち寄るような所ではない。買うには警察の許可証が必要で、購入者の収入によって買える量が決まると、噓かホントか分からないような話も聞いた。
観光客用のホテルなら辛うじてアルコールが提供されるが、その時の僕の宿は庶民向け過ぎて酒が無い。
さてどうしたものか。飲食ガイドの冊子をめくっていると素晴らしい店を発見した。