AROUND the WORLD in 38 DAYS : MEXICO
想定外の街
ハバナからメキシコシティへの戻りはアエロメヒコで3時間足らずのフライトだ。
午後4時過ぎにトラブルもなく入国して、ダウンタウンに予約したホテルへタクシーで向かった。
荷を解いたら、ゆっくり見ることが出来なかったソカロ広場周辺に出かけるつもりだった。
広場近くまで来ると様子がおかしい。やけに人が多く、あちこちに警察官が出て道路を封鎖している。渋滞で車が止まった。
タクシーの運転手がいら立って早口のスペイン語で何か言ってくる。どうやら、ここで車を降りろと言っているらしい。降ろされたらホテルまでの道が分からない。
またトラブルかと思いながら、メキシコ北部の町に住む甥っ子に電話して助けを求めた。運転手に電話を替わって訳を聞いてもらう。
死者の日祭りのパレードで一帯が封鎖されているのでホテルまでは行けないらしい。
死者の日祭りは10月末のはずだが、今日は11月最初の土曜日で本格的なパレード騒ぎは今日明日なのだという。どうすればいいのか。
甥っ子のアドバイスは腹が据わっていた。
『行けるところまで行くように頼んだから、まず運転手にチップを渡してバリケードまでたどり着き、警察官に、旅行者だと怒鳴り、通してもらえ。なんなら警察官にもチップを渡せ』
多めのチップを運転手に渡すとガラリと態度が変わる。気合が入ったらしい。わき道にハンドルを切り、クラクションで人をかき分け、警察官に近づく。
僕は窓を開けて身を乗り出し、警察官にパスポートを掲げて叫んだ。
「ソイデハポン、ツリスタ、ヴォイアロテル!」
何と、バリケードを開けて通してくれた、チップなしで。
この手でいくつかのバリケードを抜けて、もうここまでという場所でタクシーを降りた。人の波はさらに膨らんで、クラクションなど鳴らしたら危ない目に合いそうな険悪な空気がある。通りを次から次に仮装行列が行き、爆竹が鳴り、音楽と歓声が響き渡る。
スマホに表示したグーグルマップを頼りに、スーツケースを牽きながら進むが、人に揉まれて思う方向へは進めない。梨泰院の事故が頭をよぎった。
何とか人の流れから抜け出してグーグルマップで迂回路を探した。普段なら絶対に入りたくないような脇道も祭りのせいで幸運にもやや明るい。警官にパスポートをかざすという手で強引にパレードを横切り、たどり着いたホテルは目抜き通りに面した一番厄介な場所にあった。
チェックインを済ませ、シャワーを浴び終わった時には空港を出て4時間以上、夕食の時刻はとう過ぎていた。仮装行列と人の波は少し治まっているようだ。
貴重品を全て部屋のセーフティボックスに収め、スマホといくらかのメキシコペソだけを持って外へ出る。
窓ガラス越しにパレードを眺められるレストランを見つけてタコスとワインの夕食を取りながら思った。
歴史地区の徘徊は諦めるしかない。
「死者の日」は必見の祭りだが、混雑は尋常でなく街は一変する。
2度も巻き込まれたトラブルがメキシコの最大の思い出だ。