房総半島から徒然ブログ

住みにくい世の中を出来れば笑って暮らしたい、寛容でおヒマなかたのみ歓迎の気まぐれブログです。

祭りのあと ドイツ 初めてのヨーロッパ

戦い済んで

マンハイムの宿に戻ってもレースの余韻は退かず、妻を伴ってホテル1階のバーでドイツビールを飲んだ。
頭の中はサーキットの音と匂いがまだ満ちている。歓声を浴びながらグランドスタンド前を駆け抜けるセナ。長いストレートを全開で抜けてシュヴァルツヴァルト(黒い森)に消えてゆく。F1の華、真紅のフェラーリ、その魅惑のエンジン音。古館一郎の実況解説で見知った光景が実体となって脳裏にある。
しかし残っているアルバムを繰るとレースの写真があまりに少ない。カメラどころでは無かったのだ。
このブログを書き始めたのは、古い写真の整理が一つのきっかけだったので、自分の撮った写真が残っている出来事や記憶を主に書こうと思っているが、アルバム写真ではどうも足りない。足りない部分は、この先なにかで補完するしかない。
やはり良いカメラや良い望遠レンズは旅の必需品、でも今やiPhoneが切り拓くスマホの時代か。

マンハイム駅のホームに直結のバーでは何人かの客が飲みながら熱く語り合っている。さすがF1の夜、と思ったが話のネタはどうやらツール・ド・フランスらしい。インデュラインとかマイヨ・ジョーヌとかアルプス・ステージとかが断片的に聞こえてくる。この年は王者インデュラインの2連覇だった。
おいおい、今夜語るべきはフランスのスペイン人のことじゃなくて、ホッケンハイムのドイツ人だろ、あんたらのシューマッハがお立ち台だぞと、ビールが利いて独白説教モードに入る。
聞き耳を立てている我々を気にしてか時折視線が飛んでくると感じていたが、どうやらその視線は隣で飲んでいる妻に向けて、らしい。人目を惹く美人というわけではないので妙だなと思ったが、彼らの視線の言い分はどうやら、
「いくらドイツでも子供は酒飲んじゃダメよ、しかも駅のバーで、大っぴらに」
日本でもタクシー運転手から、
「若い子がタバコ吸っちゃダメでしょ」
たしなめられ、「ハイ」と喜んで消したという逸話を持つ童顔の妻は、隣であっけらかんとビールを飲んでいる。

マンハイム駅構内バー

マンハイム駅構内バー
2年後の知らせ

旅の目的を果たして列車でフランクフルトへ出た僕たちは空路日本に戻り、抜け殻のような数日を経て日常に復帰した。

そして2年後の1994年5月1日。ゴールデンウィーク休暇の出先に衝撃のニュースが飛び込んできた。第3戦のサンマリノ・グランプリ、イモラサーキットでアイルトン・セナ事故死。
この年、因縁のウィリアムズ・ルノーに移籍していたセナは、連続ポールポジションを取りながら結果が出せず苦しんでいた。だから無理をしたのだろうか。本田宗一郎が愛した天才ドライバーはイモラの左カーブを直進し、コンクリートフェンスに激突して逝ってしまった。享年34歳。
2年前のホッケンハイムでコックピットに収まっていた静かなヘルメット姿、パトレーゼとの強烈な2位争い。
共有した時間の記憶が鮮明に蘇った。

1992年 夏 ホッケンハイムリンクの第一コーナーを攻めるセナ

1992年 夏 ホッケンハイムリンクの第一コーナーを攻めるセナ

ホッケンハイムに行っておいて良かった、この目に留めておいて良かった、あの夏を逃せばもう永遠に機会は無かったと、振り返って思う。

この気まぐれブログの先にどんな意味があるのか分からないけれど、今書きたいことを、書きたいように残しておこうと思った。
すべては徒然に。