房総半島から徒然ブログ

住みにくい世の中を出来れば笑って暮らしたい、寛容でおヒマなかたのみ歓迎の気まぐれブログです。

イタリア・ナポリ 初めてのヨーロッパ

ナポリの不思議

ナポリはローマから鉄道で南に3時間の距離にある。
鉄道旅にトーマスクックの時刻表は欠かせない。
馴染んだページを繰って普通列車を選び出し、石畳の道にキャリーバッグのキャスター音を響かせてテルミニ駅に歩いた。
テルミニ駅は写真や映画で見た通りそこにあった。プラットホームは低く、乗客は手すりを掴むか車掌の手を掴んで乗車する。
『昼下がりの情事』のパリや、『007ロシアより愛をこめて』で見たオリエント急行ザグレブ駅と同じだと、少し感動しながら乗り込むと昼下がりの列車はだるそうにナポリを目指す。『ひまわり』で、窓外に咲き誇る無数のひまわりを虚ろな目で眺める悲しみのソフィア・ローレンを思い出し眼を凝らす。
が、車内や窓外の様子はどう頭をひねっても思い出せない、おそらくほとんど眠っていたのではないかと思われる。

ナポリ、ホテル前の賑やかな朝市で起床

ナポリ、ホテル前の賑やかな朝市で起床

ナポリはローマに比べてずっと田舎で、降り立ったナポリ中央駅の表には何のためにそこにいるのか分からない人々が、駅から出てくる乗客を眺めている。
しかも、そのほとんどが青黒く光る肌を持った本場の黒人の皆さんだ。
でも何でこんなにイタリアに、と思ったが何のことは無い、地中海を挟んだ向かいはアフリカ大陸で、チュニジアアルジェリア、モロッコは目と鼻の先だ。彼らにすれば何でここに東洋人がと思ったのだろう、上から下までを無言の真っ白い目でスキャンされて妻は僕の背中に隠れた。
駅前のガリバルディ広場に面したナポリでの宿は、これも年季が入っていて面白い。
まず、旧式のエレベーターで昇った客室フロアの廊下の灯りは自分でスイッチを押さないと点かない。壁の数か所に年代物の丸い大きなスイッチが並んでいて、歩きながらこれを押して順番に点灯する。歩いている間の何秒間かで自動消灯するので急いで次のスイッチにたどり着かないと暗闇になる。モグラ叩きのような、このスイッチ叩きゲームが滞在中の日課になった。
バスルームはと言うと、昔の映画に出てくるような白い猫足のバスタブが鎮座しており、寝室よりも広いのではないかと思われるスペースのどこでどうして体を洗ったらよいのか分からず、裸でウロウロし、腰から天井まである大きな旧式のガラス窓には何故かカーテンもブラインドも無い。しかもこのホテル、中庭を取り囲むロの字構造をしており、向かいの部屋からバスルームが丸見えである。その際はお互いに素っ裸だから良いようなものの、この有り様は如何なものか。これはこのホテル特有のあるいはナポリ一般の風習や否や。本場ヨーロッパの浴室は落ち着かず、どうしても馴染めない。

港湾都市ナポリは海際まで山が迫っているが、ローマの歩き過ぎからベスビオ火山の方角には登る気にならず、港とダウンタウンのレストランを巡って歩いた。
ここでも、ケーブルカーに乗らず、ポンペイも知らず、事前調査不足丸出しのツーリストとなった。

カプリ島

ここでの計画はカプリ島に渡って青の洞窟を見る事だった。
港からあれこれ出ている観光船に乗れば小一時間で着く。

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上陸したカプリ島は外周17km、千代田区とほぼ同じ面積のリゾートアイランドだ。ほぼ断崖絶壁の全島まるごとが高級リゾートで、高台には長期滞在型のホテルや有名人の別荘が立ち並ぶという夢の島、本当の意味で、である。
玄関口のマリーナグランデ港に並ぶ色とりどりのタクシーは全て屋根をハッピーに改造した年代物のオープンカーで、見とれるくらいに美しい。

マリーナグランデのビンテージタクシーたち

マリーナグランデのビンテージタクシーたち

青の洞窟に行く方法は2つあるらしい。陸をたどって近くまで歩き、そこからボートに乗るか、はなからボートで海を行くか。
徒歩好きの僕たちは前者を選び、高級ブティックやブランドショップを横目にボート乗り場へ急いだ。乗り込んだ手漕ぎボートの乗客は我々を含めて4、5人、船尾に立った陽気な船頭が大きなオールを漕ぎながら唄うサンタ・ルチアに唱和しながら洞窟に接近する。
到着した現場には先着の何艘ものボートが波間に上下して、どうやら洞窟に入る順番を待っているらしい。イタリアで初めて遭遇する渋滞だった。
で、洞窟はどこよと船頭に問えば、あれをご覧と指をさす。目前の崖の水際に目をやると黒い三角形の海食洞の上端が、鯨の背のようにうねって寄せる波に見え隠れしている。
え、ちょっと待った。三角形が波に沈んだりしてるし、そこ、入れないでしょ、今日はダメな日でしょ。
船頭は、「何言ってるのよ、任しとけよ」と言ってるらしい。今回イタリア人に任して、良かった経験がなく急に不安になった。

ー つづく ー