房総半島から徒然ブログ

住みにくい世の中を出来れば笑って暮らしたい、寛容でおヒマなかたのみ歓迎の気まぐれブログです。

ナポリから再びローマへ 初めてのヨーロッパ

イタリア国鉄の怪

ナポリで3日間の滞在を終えた僕たちは、再びの普通列車でローマに戻る。ローマからは夜行寝台列車に乗り換えて、友人の待つルクセンブルグに向かう予定だ。
ナポリ中央駅で切符を買い、ローマ行きの列車を探すが見つからない。ホームにいる駅員に尋ねると、そんな列車は無いと言う。流石にあわてた。もっとあてになる人間に聞こうと切符売り場に向かうと、さっきの駅員が何か叫びながら追ってきた。
遠くに止まっている列車の1つを指さして、「アレガソウダ、ノレ、ハヤクノレ、イソゲ!」と聞こえる。
取り乱した僕らは滅茶苦茶に荷物を引いてホームを疾走し、列車に飛び乗った、飛び乗って考えた。あの駅員が列車の出発時刻まで知っていたとは思えず、この列車がそうなのかも疑わしい。列車は動く気配もなく、考えたら十分な時間の余裕を持って駅に来ている。息を整え、何事もなかった風情で急いで車掌を探し確認すると、この列車で間違いなく、トーマスクックの言う通りの時刻12:15に列車は何の前触れもなく発車した。

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ローマまで3時間、のはずが

ローマへの復路はのどかそのもので、いくつかの駅でたっぷりと停車しながら進んでゆく。人影もまばらな駅であまりに長く止まったままなので、トーマスクックの時刻表を取り出して駅名から着発時刻を確認してみた。既に30分近く遅れている。ま、イタリア国鉄はこんなもんかと窓外に目をやると、遠くの畑のほうから駅舎にゆっくり歩いてくるおばさんがいる。で、列車に乗り込む、すると列車が発車した。
頭が混乱した。たまたま30分以上遅れている列車。とうに発車予定を過ぎた時刻にゆっくり駅にやってくる乗客。あり得ない。丘の上の我が家から望遠鏡で見張っていたのか。イタリア国鉄は電話で乗車予約が出来るのか。はたまたこれはデマンド列車か。時刻表によればこの駅に止まる午後の列車は数本しかないのだ。松本清張に解いて欲しい、おばさんに直に質問してみたい。イタリア語で数を数えるのも覚束ない僕は悶々とした。

その後も同様の停車を繰り返し、列車は悶々とローマを目指す。
そのうちに遅れは更にじわじわと広がり、段々と不安になってきた。イタリア国鉄の正確性を期待しない僕はローマでの乗り継ぎに2時間の余裕を見ていた。日本では十分過ぎる余裕だ、イタリア国鉄でも通用するはずだ、通用して欲しい。
もはや鉄道旅を楽しむ余裕はどこへやら、どんどん遅れているんだから乗客のいない駅はパスしていいんじゃないの、とか、もっと飛ばして遅れを取り戻す気はないのか、とか、心中で呟いたり呪いの言葉を吐いたりするうちにローマが近づく。

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飛んでテルミニ

テルミニ駅では停車を待ちきれずに列車を飛んで降り、我々の寝台列車を探した。
列車はすぐに見つかり、車掌さんは「ドウシタノ」という顔で僕を見る。目が吊り上がっていたと思う。一気に冷静になり、行儀のよいツーリストに戻った我々にはもう一つ不安があった。金沢で購入した個室寝台予約切符がローマで本当に通用するのか。
しっかりバックに入れて保管して来たそれは何の飾り気もない、ガリ版でも刷れるような小片だった。
差し出した切符を受け取った車掌は券面を確認し、すぐに我々のコンパートメントまで案内してくれた。イタリア国鉄、素晴らしい。

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今や余裕の旅慣れた乗客となった僕は、夜行の長旅に備えて飲みものなどを仕入れ、見納めとなるテルミニ駅の雰囲気を味わうために、売店のおばさんや赤帽のおじさんをからかったりして時間を過ごした。
かくして、国際寝台列車エーデルワイス号は定刻の17:10にテルミニ駅を発ち15時間の旅が始まった。
車内でもう一つの小さな事件に合うとは予想もしない、順調な出発だった。


ー つづく ー